THE MINI STRIP.
ポール・スミスによる、
ひねりの利いた持続可能なデザイン。
——ポール、MINI STRIPを3語で説明していただけますか?
ポール・スミス(以下、ポール):Less is more.(より少なく、より豊かに。)
——では、オリバーは? どんな3語が思い浮かびますか?
オリバー・ハイルマー(以下、オリバー):Raw, refreshing, original(ありのまま、斬新、オリジナル。)
——これらの単語は、ポール・スミス氏を形容するものでもありますか?
オリバー:ポールと初めて会った時、私の妻は「とても気さくな紳士ね」と彼を的確に表現してくれました。私はそこに「並はずれて好奇心の強い紳士だ」と付け加えたいと思います。
——その好奇心はどのようなところで現れますか?
ポール:それは、私がクルマについては素人だからです。私はファッション・デザイナーですが、子どものように探究心が旺盛です。その純粋さのおかげで自由でいられるとも言えるでしょう。ですから、私はかなりざっくばらんに、自転車のスクリューは全部見えるのになぜクルマのスクリューは見えないのか、私の会社の若い社員たちはスポーツ・クライミングにはまっているが、ドア・ハンドルを実用的なクライミング・ロープにしてはどうだろうか、などと尋ねました。オリバーはおそらく最初、「この人は正気ではない」と思ったことでしょう。
オリバー:たしかに彼のアイデアの中には、思わず笑ってしまうようなものもありました。しかしポールは、私たちの仕事に新鮮な視点を与えてもくれました。私たちも色々なことに疑問を持ち始め、ドア・ハンドルやむき出しのスクリューなど、ポールの突拍子もないアイデアをいくつか採用しました。
——このMINIは、文字通りミニマリズムを特徴としています。塗料の代わりに防錆剤のコーティングが施され、ダッシュボードにはほとんど計器類がありません。MINI STRIP は、まる裸とまでは言わないまでも、ほとんど剥き出しのように見えます。このようなモデルを考え出すには、かなりの自信が必要だったのではないですか?
ポール:工業デザイン界の巨匠でプロダクト・デザイナーのディーター・ラムスは、かつて「ミニマルであるほど優れている」と言いました。それは、私のほとんどの仕事にも当てはまることです。私は駆け出しの頃に白シャツをデザインしました。シンプルな衣類を作ることは、特に若いデザイナーにとっては野心的ではないと思われるかも知れません。しかし、当時では珍しいことでしたが、私は襟には芯地を使わず柔らかな襟にし、縫い目がほとんど見えない仕様にしました。ボリュームの出る裁断をし、特殊なコットン生地で作りました。そのシャツは革新的で新しいものになったのですが、その経験から、たしかにシンプルなデザインにするには勇気が必要だと思います。
オリバー:ノイズが多く複雑な世の中では、なおさらそうです。最近の自動車デザインは複雑化し、あらゆるものに遊び心を持たせ、特別なデザインを施したがる傾向があります。私は、よくこう自問します。「これは必要なのだろうか?ありのままにしてはだめなのだろうか?」と。私は、物事をシンプルに保つことは、自信の表れだと思います。
—— MINI STRIPがミュンヘンのIAAモーター・ショーで公開された後、南ドイツ新聞は「これ以上削ぎ落としたクルマは事実上不可能だ―何と美しいのだろう」と論評しました。このコメントは喜ばしいものでしたか?
——でも、MINI STRIPは違いますね。あなたは製造工程の痕までそのままボディーに残しています。
ポール:本当の意味で贅沢とはどういうことなのか?カシミアのセーター?高価な宝石? 私にとって贅沢とは、ポピーの花畑を歩くことです。また、私にとってこのMINIで最も重要なのは、機能性です。さらに言えば、私たちはファッションにおいて、デザインの不完全さも好みます。たとえば、ブリーチ加工やダメージ加工、パッチ補修を施したジーンズとか穴の開いたジーンズです。はじめはしっくり来なくても、時間が経つにつれて、より着心地良くなり、愛着が湧いてきます。
——持続可能性を特に重視されたと思いますが、コルクのようなオーガニック素材を使いました。その変わった発想はどのようにして生まれたのですか?
オリバー:コルクは、自動車デザインの分野で大きな可能性を秘めています。また私たちは、気候変動に配慮して自動車を最適化する方法についても考えています。コルクは、冬には冷たくなりすぎず、夏には熱くなりすぎない、温度変化によく適応する理想的な断熱材と言えます。特徴的な香りもある、とても興味深い素材です。
——あなたは、持続可能性の時代の象徴を創ったと言えるのではないですか?
オリバー:私にとってMINI STRIPは、将来的に私たちが目指したい持続可能性への道筋を、ストレートに示していると思います。そしてポールが言ったように、私たちは何も誤魔化してはいません。それまで聞いたことがなかったスタートアップ企業と協力しましたが、リサイクルしたプラスチックなど、私たちが必要とした材料を提供できたのは彼らだけでした。それはリスクもあり少し不安でしたが、私たちは持続可能性のコンセプトにこだわりたかったので、他の素材を使うことはまったく眼中にありませんでした。リサイクル製品は技術的な難しさもあり、自動車製造においてはほとんど使われていないのです。
——オリバー、あなたは以前、自分のデザインで物議を醸したいと言っていました。MINI STRIPは挑発的なデザインだと思いますか?
オリバー:それは、その言葉をどう定義するかによります。建築家のルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエには賛否両論があります。それは、彼のモダニズム建築が「Less is more. より少なく、より豊かに。」の主義にも従っていたためです。彼は誰も挑発するつもりはありませんでした。それは副次的に生まれたものなのです。
——ポール、あなたのファッションは、奇抜さと優しさを表現しています。このクルマも、同じことを表現していますか?
ポール:人生では、リスクを負う覚悟が必要です。そうでなければ、この惑星はあまりにも退屈です。私たちは、日常を少しでもカラフルにする人々が好きですよね。悪さではなく、ユーモアによって目立つ人が好きなのです。MINI STRIP のような製品にも、そのようなスピリットが感じられるはずです。
——多くのデザイナーは、何が一番うまくいくかについて明確なビジョンを持っていますよね。コラボレーションするうえで、激論をかわすことはありましたか?
ポール:私はただ「こうしてもいいかな?」と感じ良く尋ねただけです。そしてオリバーは「いいですよ」と言ってくれました。
オリバー:ポールは、激論するには紳士すぎますし、ロックダウンと移動制限があったので、電話で多くのことを話し合わなければなりませんでした。
ポール:私たちは、ロンドン〜ミュンヘン間でサンプルを入れた小包を何度も送り合ったり、Zoom会議ではカメラにポストイットのメモをかざしたりもしました。
——ポール、今回のコラボレーションで、オリバーのどんなところに感謝していますか?
ポール:私たちは、遠く離れた距離を乗り越えて、すぐに打ち解けることができました。オリバーは本当に家族思いで、12歳の娘さんがデザインしたノートを送ってくれたこともあり、私も彼女に感謝の手紙を送りました。私たちは互いに尊敬しあっていますし、ふたりとも地に足のついたリラックスした人間なのです。
オリバー:私の妻が、私とポールについて言っていたことを思い出しました。彼女は、人や人間関係について感覚が鋭いのですが、彼女は私たちを見て「あなたとポールはとてもよく似ているけど、それは見てわかるような明からさまなものではないわ」と表現しました。
—— MINI STRIPを、まず最初にどこに持って行きたいですか?
オリバー:厳しい批評家たちに見せたいですね。私たちは、家具の見本市であるミラノサローネを検討しました。ポール、そうでしたね?
ポール:もしくは、デザイン学校に持って行くか。このクルマを見て、自分のアイデアのヒントになるような人々に見てもらいたいのです。必ずしも常に革新的なものを作らないと、ということではありません。しかし、私たちは2人とも、とても納得のいくクルマに仕上がったと思っています。
——オリバー、ポール・スミスのスーツに挑戦するのはいつになりますか?
ポール:おっと、そんなことはさせませんよ。彼がリベンジとして、袖が3本あるジャケットとか、何か訳のわからない、変なアイデアを持ってきたらどうするんですか?
オリバー:心配ないよ、ポール、そんなことはしないよ。でも、インターンにはなってみたいかな。