Oliver Heilmer charging MINI Recharged, with Paul Smith on board

アイデアをカタチにする。
それは、夢のような仕事です。

MINI Rechargedアップサイクル・プロジェクトは、ガソリン・モデルを電気自動車に改造するというもの。デザイン界のアイコン、ポール・スミスは、自身のモデルである1998 Mini Paul Smith Editionを電気自動車化し、クラシックMiniを再発明したと言えます。私たちはこのプロジェクトを追跡しました。
MINI Recharged filming scenes

北ロンドン、イズリントン区にあるホルボーン・スタジオ。そこにポール・スミスが入ってきたのは、午前9時ちょうど。レンガの壁には、かつてこのスタジオを訪れた人々のポートレートが飾られています。デヴィッド・ボウイ、ケイト・モス、オアシス、ザ・クラッシュ、ローリング・ストーンズなど、まるでポップカルチャーのギャラリーのようです。そして4月のこの月曜日、またしても英国を象徴する者同士が、ここで出会うことになりました。ファッション界のアイドルであるポール・スミスと、カルト的な人気を誇る自動車ブランド、MINI です。

空気が張り詰めた、撮影スタジオNo.6。ポールとMINIが半年前から待ち望んでいたプレゼンテーションの準備を、カメラマン、サウンド・エンジニア、カメラ・オペレーター、メカニック、メイクアップ・アーティスト、プロダクション・マネージャーたちが進めています。白いスクリーンの前では、最新のコラボ・プロジェクトの作品が、深いブルーの輝きを放っています。1998年に発売された世界限定1,800台 の、Classic Mini Paul Smith Editionです。しかし、その見どころは、ボンネットの下に隠されています。かつては内燃エンジンが置かれていた場所に、今は電気モーターがおさまっているのです。ポール・スミスが、自身のClassic Miniを再発明したと言えるでしょう。
Paul Smith and MINI Recharged filming scenes
Front image of MINI Recharged
Paul Smith explaining at the rear of MINI Recharged

かつての夢が、いま現実に。

その日は、ポールがこの生まれ変わったクルマを初めて見る日。目的は、2022年6月にミラノで開催される「ミラノサローネ国際家具見本市」 で、世界中の人々にカルト的に愛されるMINIの、現代におけるビジョンを提示すること。準備は、スケジュール通り順調に進んでいるよう。しかし、このユニークな作品は感動を呼ぶのでしょうか?ポール・スミスの伝説的なアートワークと調和するでしょうか?——それとも少しばかり突出するでしょうか? 

チェックのパンツに、ネイビー・ブルーのシャツとブラックのスニーカーを纏ったデザイン界のアイコン的存在であるポールが、クルマに近づいていきます。彼はスポットライトの影で繰り広げられる喧騒をものともせず、淡々とスタジオ内を移動し、鋭い観察眼でクルマを観察し、グリルにあしわられたロゴやブラックのリムに装着されている自身の有名なサインに注目します。

次にインテリアに目を向け、オレンジ色のシートベルトに手をやり、片膝を付いてむき出しのベースパネルやシンプルにデザインされたフロアマットも確認。そして、自身のスマートフォンをステアリングホイールのすぐ隣にあるマグネットに取り付けました。これは、スピードメーターを除くダッシュボード上のほとんどのボタンや機能の代わりとなるのです。

彼は、自分の指をまるでセンサーのようにすべてのものに走らせ、クルマのオーラを感じているようです。ポールは何度も感嘆の声を上げたり、「いいね」とつぶやきました。そして、打ち合わせ通りに従っただけではなく、自分たちのアイデアも盛り込んだメカニックたちを労うように、軽く背中を叩きました。ポールの「よくやったね」という言葉に、彼らは安堵の表情を浮かべました。このクルマは、電気自動車に変身を遂げたのです。「私にとって、アイデアを出すことは簡単です。難しいのは、それを現実に変えること。それを達成することは、夢を叶えるようなものなのです」と、ポールは語るのでした。
Paul Smith looking at us from the driver's seat in MINI Recharged

ポール・スミスについて

1946年、英国ノッティンガムに生まれたポール・スミスは、ファッション界およびクリエイティブ業界のアイコンとなっている。バイヤーやブティック・マネージャーを経て、1970年に自身のビジネスを起業。1976年、初のメンズ・コレクションを発表する。今日、彼の事業は130以上の店舗を展開するまでに成長している。1990年代終盤には、有名なカラー・ストライプによってMiniとコラボレーションを実現。ロンドンではEV MINIに乗っており、セントラル・ロンドンにある彼の有名なスタジオのすぐそばには、充電ポイントが設置されている。

先駆的プロジェクト。それが、MINI Recharged.

このアイデアが実現したのは、MINI Rechargedというプロジェクトがあったからこそ。その陰には、「Recharged Heritage Limited」という企業のエンジニアたちの存在があります。彼らは新たなMINIのパートナーとして、内燃エンジン搭載のクラシックMiniを、現代のエミッションフリーのスピードスターに仕立てるという、先駆的なプロジェクトに取り組んでいます。90 kWの電気モーターによって古いモデルに新たな命を吹き込み、アップグレードさせました。現在メガトレンドになっているアップサイクリングが、ついに自動車業界にも訪れたのです。

また、このプロジェクトでは、クラシックMiniの発明者であるアレック・イシゴニスのアイデアも継承しています。1959年、当時の石油危機に対応するため、エンジニアたちはクラシックMiniを開発しました。コンセプトは、「最小限の燃料と、最大限の収納スペース」。気候変動やエネルギー危機の問題を抱えている現在、このコンセプトはより重要な意味を持っています。そして、プロジェクト発足時にMINIは、迷いなく長年の友人であるポールに「自身のクラシックMiniを電気自動車にしてみないか」と打診をしたのです。

ポールは昨年の夏にミュンヘンで開催されたIAAで、構成要素を極限まで削ぎ落とし、持続可能性を追求したコンセプトカー、MINI STRIP を発表したばかりでした。ポールのRechargedモデルは、このアイデアを新たな形で表現したものです。ポールは「このモデルを完璧に表現する3つの言葉。それは、品質、持続可能性、そして機能性」と語ります。ただし、「同時にこのクルマは、過去をリスペクトしています」ともつけ加えました。

MINI Recharged taken from the front left
MINI Recharged engine

完璧なコンビ。
Paul Smith x MINI
Recharged.

ポールは黒のペンを手に取り、90年代から今日まで使われ続けているカラーである、ライム・グリーンのバッテリーボックスにサインし、その横にEVのシンボルである稲妻を描きました。「私たちは、90年代のクルマを、現代でも十分通用するものにしました」と彼は語っています。

ここで、フォトグラファーもこの瞬間を逃すまいと、動き出します。ポールもその期待に応えるよう、その瞬間をファッションショーのように楽しんでいるようです。トランクから充電ケーブルを取り出すと縄跳びのようなアクションをしてみたり、リア・シートに寝そべると、窓から足を出してみたりと、おちゃめな一面を見せてくれました。

これは、ポール・スミスらしい、陽気で、温かく、気さくな振る舞いです。そして何より、本当の姿です。彼は、自分のブランドそのものを体現している存在なのです。ポールと過ごす瞬間には驚きがたくさんあります。その一つとして、彼がさっと取り出した少し洗いざらした青いシャツの物語があります。それは1996年、彼がオックスフォードにあるMINIの工場で、Mini Paul Smith Editionのオリジナルカーをデザインしたときに着ていたものだというのです。当時のエンジニアがこのクルマを何色で塗装するのが良いかと相談したとき、ポールは自分のシャツを指して「この色にしてほしい」と答えました。そして彼はそのシャツの裾の一部を切り落としたそう。あれから26年後、彼は穴のあいたシャツを車体のブルーにかざし、にやりと笑いました。この写真は、MINIの歴史に残る一枚と言えるでしょう。

初心に帰って考える。これは生かす、これは省く。

Rechargedモデルの開発も、オックスフォードのカウリーで行われたミーティングから始まりました。2021年12月のある凍てついた日、ポール・スミスはテクニカル・チームと同席し、ブレインストーミングに臨みました。ポールは、着ていたダーク・ブルーのコーデュロイのジャケットから、いくつかの質問が書かれた紙を取り出しました。最も重要な質問、それは「これは省けるのか?」というもの。これが、電動化における基本指針となりました。
「叔母さんのアパートに引っ越す時、敬意を払ってすべてを変えるのではなく、部分的にモダンにするようなものです」と、ポールはクラシックMiniを眺めながら言います。しかし、最終的にはモダニゼーションとは断捨離のようなもの。結局、サステイナブルであるべきなのは駆動系だけでなく、全体のコンセプトなのです。そこで、プラスチックは使わず、カバー類やレザーは廃止。再生繊維を使ったシート・カバーや、再生ゴムを使ったフロア・マットが採用されました。
しかし、それより先に天秤にかけなければならないことがあります。野心と、実現可能性です。なぜなら、ポール自身が言うようにクルマはスーツではないからです。自動車の設計とは複雑なプロセスであり、安全性に関するガイドラインもあります。完成は数ヶ月後に予定されており、あまり時間がありません。ポールは、エンジニアたちの不安を理解しています。彼らは、車体以外はすべて作り直さなければならないのではないかと、疑っていたのです。

アップグレード。それが、変身の始まり。

電動化の次のステージは、北西部にあるバーンリーで行われたワークショップでした。作業は、すぐに開始されました。 エンジンのアップグレードは、最も簡単な作業です。バーンリーのメカニックたちがより心配したのは、インテリアの削ぎ落としについて。ステアリング・ホイールのレバーや操作系、ハイビーム・ヘッドライトやワイパーなど、電子機器をすべて取り外すのは複雑な作業でした。90年代の古いスピーカーも、「より少なく、より豊かに」という哲学には逆らえず、ワイヤレス・サウンド・システムに入れ替えられました。古いライトは、最新のLEDテクノロジーに置き換えられました。スピードメーターもデザインし直されましたが、その作業は、メカニックたちが段ボールでモデルを作って写真を撮り、その写真をインテリアにかざして行われました。そして、この草案をWhatsAppのプロジェクト・グループに送ったのです。

電動化。それは、クルマに命が宿ること。

3週間後、ブリストルのワークショップで、このクルマの心臓移植が行われました。バッテリーと電気駆動装置が設置されたのです。その大部分は3Dプリンターで製作されました。エンジンをバッテリーに置き換えることでクルマの重量配分は変わるので、ハンドリングやドライビング・プレジャーも変わってきます。したがって電動化は、オリジナルの構造に合わせる必要があるのです。ポールのモデルに対する作業は組織的に展開され、エンジニアたちはRechargedプロジェクト全体を通して多くのことを学びました。また、これはポールにとっても貴重な経験となりました。

 

 

MINI Recharged charge port

ロンドンに戻る。2つのアイコンが自身を蘇らせる。

Paul Smith in the driver's seat talking to staff
ホルボーンのスタジオで運転席に座り、くつろぐポール。「MINIのようなブランドや、私のブランドのように長く続くビジネスが時代を超えて生き残っていくには、常に自身を客観的に評価することを繰り返すという作業が大切になってきます。そうしないと、どこかでつまずくことになるでしょう。」と彼は言います。Mini Paul Smith Editionの想い出が蘇ります。当時、英国市場向けに300台、日本向けに1,500台が販売され、大ヒットとなりました。ポールは多数のクルマにサインをすることになっていたのですが、ある時Miniのドライバーに道で呼び止められ、「サインをしてほしい」と無理強いされたこともあったそう。中にはサインをもらうために、スタンダード・モデルのMiniのグローブボックスを取り外して持ち込むファンもいたそうです。
Paul Smith lying with his legs out of the driver's window

必要不可欠なこと。
それは、時代に合った持続可能なモビリティ。

もしかしたら、このようなファンが、アイドルの真似をするように自分のクラシックMiniを電動化するかも知れません。ポール・スミスは、自分の作品が数世代先の人々にインスピレーションを与えることを望んでいます。そして、「私たちは、気候変動に加担しないようなライフスタイルを意識しなければなりません。ですから、私たちは、オリジナルのクラシックMiniよりも今の世界により合ったクルマを作りたかったのです」と言います。ポール・スミスのMINI Rechargedは、アート作品であると同時に、持続可能な循環型経済の可能性を示す象徴でもあるのです。


ポール・スミスは、服飾以外にも家具やカメラ、書籍のデザインも手がけ、多くのブランドとコラボレーションを続けながらも、MINIとの間には、変わらず特別な絆があります。その理由は、彼自身が長年MINIに乗っているから。そして、このクルマがコンパクトで機能的であり、つねに喜びと驚きを与えてくれるからです。もちろん、それは彼のMINI Rechargedモデルにも言えること。ポールはステアリング・ホイールの側面を握ってカチッと音を立てて外し、フリスビーのように手に持つと、長い足をどこにもぶつけることなくクルマからすべり出て来ました。そして、こう言うのでした。「本当に、私のお気に入りのクルマなんです」。

MINI Recharged headlights

MINI RECHARGEDについて

ポール・スミスのカスタム・カーは、MINI Rechargedアップサイクリング・プロジェクトの一環。オリジナルのMiniに電気モーターを搭載し、伝統と先駆的な技術を融合させたものです。その夢を叶えてくれたのが、“Recharged Heritage Limited”のエンジニアたち。新しいMINIのパートナーとして、彼らはMINI Rechargedを実現しました。

クラシックMiniに 90 kWの電気モーターを搭載し、エミッションフリーのクルマに改造しました。バッテリーは、最大6.6kwの出力で充電でき、1回の充電で約160km(およそ100マイル)の航続距離を達成しています。これは、多くの大都市の環境保護区で、再び走行が許可されることを意味しています。さらに、MINI Rechargedの一環として行われる電動化において、車両本体に加えられたすべての変更は、元に戻すことができます。 クルマの歴史的遺産を丁寧に扱うことも、コンセプトの重要な要素。つまり、後日、クラシックMiniをオリジナルの状態に戻すことも可能なのです。 そのため、各車両のオリジナルのエンジンは、将来クラシックMiniを内燃エンジンに戻したくなった時に再利用できるよう、電動化の時にマーキングして保管されるのです。

免責事項

クラシックMiniのオーダーメイドのアップサイクルは、専門パートナーである「Recharged Heritage Limited」が英国で独占的に行っているものです。電動化した車両にはシリアル・ナンバーが付与されるため、さらに個性的な一台となります。