都市の未来を考えるURBAN-X

都市の未来を考えるURBAN-X

URBAN-Xは、都市生活のあり方を再考しているアントレプレナーに向けたスタートアップ・プラットフォームです。大胆な技術ソリューションで都市生活を改善しようとする各種企業を支援するため、MINIはこのURBAN-Xをニューヨークに設立しました。スタートアップ企業はさまざまなイノベーションを生み出しています。EV充電設備のローケーションを分析するもの、レストランで余った食材を販売するビジネス、ドローン用のインフラを広く整備したり、気候変動に立ち向かうロボットを開発するなど、その取り組み内容は実に多岐にわたっています。

バルセロナ生まれのミリアム・ロウレ









URBAN-Xが提供する20週間にわたるプログラムに、どのアーバン・テック企業を招くべきかを決める専門家の一人に、ミリアム・ロウレ(Miriam Roure)がいます。バルセロナ生まれのロウレは、ハーバード大学とコーネル大学を卒業後、建築家として自身のキャリアをスタートさせました。その後まもなく、彼女はデジタル技術が人々の交流や人間の環境をどのように形成していくのかについて興味を抱くようになります。マサチューセッツ工科大学(MIT)の「Senseable City Lab」で調査員としての仕事をしたのち、ロウレは5年前にプログラム・マネージャーとしてURBAN-Xに加わりました。

MINIが設立したスタートアップ・アクセラレーターに参画し、​
都市の課題に取り組んでみようと思ったのはなぜですか?​

MITに在籍中、私はデータやセンサー技術が都市の運営をどれだけ劇的に変化させられるのかについて、大企業や都市の行政機関と一緒に調査を行っていました。​
新しいソリューションが必要であることは明らかでしたが、どの組織も迅速にそれらを開発できない状況でした。URBAN-Xが誕生したのは、まさにその点を解決するためだったのです。URBAN-Xは、新しくて大胆なアーバン・テクノロジーを開発する創業者たちに、創業の初期段階で支援の手を差し伸べることを目的としています。独自のボトムアップ・アプローチでは、各ソリューションの開発と実施を加速させることができます。URBAN-Xは、これらの各種テクノロジーが、都市の人々の生活、余暇、仕事にどのような影響を与えるかだけでなく、将来の気候にどのような影響をおよぼすのかについてもフォーカスしています。​
 

各都市を独自の環境と呼んでいらっしゃいますが、それはなぜでしょうか?

都市というのは、人々が集まり、それぞれの人が互いに繋がりを持つことで形成されます。人口密度が高くなれば、イノベーションのレベルが高まり、出願される特許の数も増えます。都市はクリエイティビティーやイノベーションを育むための場所なのです。

ニューヨーク都市風景

手頃な価格の住宅を供給すること、インフラの問題を解決すること、さらには気候変動の影響に対処することなど、都市は数多くの課題を抱えてもいます。URBAN-Xのようなスタートアップ・アクセラレーターは、これらの課題にどのような解決策をもたらせますか?

都市は数多くのイノベーションを生み出しますが、同時に多くの課題を抱えています。例えば、私たちが排出する二酸化炭素は、全体の70%が都市部からのものです。社会的不公平の割合は、記録的な水準にまで高まっています。少なくとも米国ではそれが現実です。興味深いことに、昨今のパンデミックによって、人々の中には都市部から人口密度の低い地域に移り住む人も出てきています。しかし、URBAN-Xは、このタイミングで各都市の強化を図ることについて議論をしようと考えています。今日の世界はきわめて重要な課題をいくつも抱えていますが、そのうちのいくつかに対処するためのクリエイティビティーを、各都市で育んでいけるようにしようと考えているのです。
 

 

具体的にはどのようなことでしょうか?
 

人々が集団で生活するようになるとリソースやインフラを最適化しようとするため、都市は住み心地の良い場所になっていきます。それだけでなく、各種のテクノロジーによって、不公平が解決されるようにもなります。例えば、私たちが調査・研究を進めているテーマの中に、新しいモビリティー・サービスの開発と自律走行車のためのインフラ整備というのがあります。これらは私たちの社会の在り方そのものを根本から変えられるだけの力を秘めています。私の好きな考えに‘てぃっピング・ポイント’という概念があります。これは、たとえ小さな変化であっても、それが積み重なれば社会を変化させるだけの大きな影響力を持つようになるという考え方です。

URBAN-Xはスタートしてから5年が経過




 

URBAN-Xは、スタートしてから5年が経過していますが、現在はどのような状態でしょうか?

私たちは、約80社に対して投資を行い、10番目のプログラムを完了させたところです。素晴らしい創業者たちとコミュニティを築くことができて誇りに感じています。私たちが関わっているスタートアップの中には、最初に出会ったときに従業員が2名しかいなくてアイデアに苦慮していた企業もありました。そうした企業も現在は十分に成長していて、数十人、数百人の従業員を抱える一大企業までになっています。これらの企業が成長した姿を目にすると、ものすごく報われた気分になります。このような優れた創業者たちと仕事をすることができて、個人的には非常に満足です。このURBAN-Xは、企業が技術開発へ向かう動きを実際に刺激する役割も果たします。プログラムに適した企業を選択することと、選んだ企業の創業者たちと一緒に仕事をすることは、私がURBAN-Xで最も楽しさを感じられる部分です。

お気に入りのスタートアップはありますか?​

 

それぞれの創業者と強固な関係を築いていますので、特にこれ、というお気に入りのスタートアップというのを挙げることはできません。とはいえ、アーバン・テック企業にサポートや投資を行うことの価値が本当の意味で分かるのは、あるスタートアップが巨大な市場ニーズに応えたときだけでなく、インパクトのきわめて大きなテクノロジーもしくは製品を開発したときだと感じています。例えば、cove.toolという企業は、建物の設計段階で出される排出物を削減できるよう、各種のメソッドを開発しています。また、Mobilyzeという企業は、電気自動車向けの充電インフラを改善していくことが自社のミッションであると考えています。URBAN-Xが直近で関与したスタートアップとしては、LimeLoopが際立つ存在です。同社は持続可能な配送を実現させるための、エンド・ツー・エンドなプラットフォームを開発しています。最近、私はニューヨーク市に戻ったのですが、ごみの収集日に、何も入っていない配送用の段ボールがいくつもの通りに積み上げられているのを目にしました。そしてそのとき、現在のパッケージング・システムや配送システムは、なんて不合理なんだろうと感じたのです。そこには現在の状況を見直して、より循環性の高いモデルを生み出す大きな必要性が存在しているのです。​


スタートアップの成否を分けるものは何でしょうか?​

創業間もない企業に投資をするアクセラレーターとして、私たちは創業者との関係を築くことがきわめて重要であると気付きました。私たちが求めているのは優れたチーム、そして自分たちが取り組んでいる物事に対して熱意を持っている創業者たちです。自身の事業に熱心に取り組んでいて、その事業のことを深く理解していれば、それは周囲の誰もが分かります。しかし、統計的にみると、ほとんどのスタートアップは成功を手にすることができません。ですから、創業者が自身のビジョンを実現させるうえでは、計り知れない楽観的姿勢を持つことが必要だと言えるでしょう。創業者というのは、チームの形成、ソリューションの構築、顧客の獲得といった部分に自身のエネルギーを投入しなければなりません。社会の一員として私たちは、人々がソリューションを開発してそれらを市場に投入できるよう、彼らや彼女らに手を差し伸べていくべきなのです。私たちが投資した創業者たちは、その多くが異なるバックグラウンドを持っています。この活動が効果的であることを若い女性たちや有色人種の人たちに示せるというのは、とても価値のあることです。

以前、「私たちは自分の想像を形にするけれども、想像した物事も私たちのあり方に影響をおよぼす」とおっしゃっていました。それはどのような意味ですか?

私たちは自分たちの行動が一方通行であると考えがちです。自分自身から特定の対象へ向かうものだと考える傾向にあるのです。しかし、実際のところ、関係というのは、自分もその対象から必ず影響を受けるものだと言えます。何かを行えば、直接的あるいは間接的にその影響を必ず受けるのです。‘何もしない’という選択をした場合でも、それは変わりません。私たちはこの現実から逃げることができないので、そういうものだと意識していることは大切だと思います。

テクノロジーの専門家であるミリアム・ロウレ

URBAN-Xの大きな特徴の一つは、さまざまな分野のスタートアップを支援するアクセラレーターであるということです。モビリティーの分野はさておき、URBAN-Xは不動産に関する技術分野を始め、公衆衛生、エネルギー、食品と、幅広い分野に対して投資を行っています。こうした活動は、多くの人々が自動車メーカーに対して持っているイメージから大きくかけ離れているように思えます。

 

MINIの強みはその独創性にあります。URBAN-Xでは、都市の課題を解決するためのソリューションに目を向ける際、その独創性を活用するようにしています。MINIの最初のデザイナーたちは、都会で生活するための素晴らしいカー・ソリューションを生み出しました。しかし、モビリティーのイノベーションにだけ目を向けているとしたら、それは都市のエコシステムに関して、数多くの機会を逃しつつあるのだと思います。都市生活のさまざまな課題は、それぞれが互いに絡み合うようになってきています。ある業界のトレンドはその業界だけのものとは限りません。世の中はきわめて急速に変化しているのです。世の中で起きていることに対してより広い視野を持つこと、つまり、モビリティー以外の分野にも目を向けられるようになることが大切だと言えます。

1902年に建てられた歴史的建造物

世界中で、毎月約600万人の人々が都市に移り住んでいます。パンデミックによって人々の都市に対する見方が変わりつつある中、この傾向は鈍化していると思いますか?

 

いいえ。多くの人々の当初の反応は、「リモート・ワークになったので色々なことができるようになった。これからは9時から5時まで机で仕事をする必要がない。プライベートと仕事を今までよりも一元的に管理することができる」というものでした。結果として、それまでとはまったく違うところに住めるようになる人も出てきました。例えば、休日に出掛けることが多い場所に住むことも可能になったのです。しかしその一方、人々は他の人に会えなくなること、幸運な出会いがなくなること、都市がもたらす各種の機会がなくなることに寂しさを感じるようになっただけでなく、都市の雑踏や発展性が恋しくなり始めてもいます。気候変動がより緊急性の高い問題になっていく中で、各都市はかつてないほど人々にとっての重要性が高まっています。

ミリアム・ロウレのお気に入りの都市




 

お気に入りの都市というのはありますか?

間違いなくバルセロナでしょう。私が育った場所ですから。バルセロナはとても民主的な都市で、すべてにおいて人々を優先しています。建物の高さは太陽の光が道に届くレベルにとどめられているため、通りには数多くのテラスがあります。このほかバルセロナには、山も公園も、さらにはビーチもあります。また、起業家精神と商取引の文化に根差した都市であるうえに、郷土色がきわめて強い部分もあれば、国際性が豊かな部分もあります。バルセロナは、個人の意見と集団の幸福をどうすれば尊重できるのかを理解しています。バルセロナの出身であることを、とても誇りに感じています。​

URBAN-XとMINIの次なるステップはどのようなものですか?
 

数々の計画が持ち上がっていますが、それらについては、現時点ではまだお話しすることができません。いまのところ、計画は順調に進んでいます。例えば、私たちが関与しているスタートアップの2社は、大企業に合併されました。そのうちの1社はBlueprint Powerという企業です。同社は、クラウドベースのソフトウェアでグリーン・エネルギーを売買できるよう、商業ビルを仮想発電所に変える技術を開発しています。BPというガス会社がこの企業を買収しました。もう一つのスタートアップはEvolve Energyという企業で、英国で再生可能エネルギーの小売業を営むOctopus Energyに買収されました。同社は電気の卸売価格を住宅用顧客に知らせ、顧客がスマート・ホーム技術を活用できるようにしています。ベストなタイミングを見つければ、顧客は電気代を最大50%削減することができるのです。どちらのスターアップも実に優れた企業だと言えます。

ニューヨークを拠点とする「Farmshelf」で葉物野菜、ハーブ、エディブルフラワーなど40種類以上の作物が用意されている

URBAN-X LAB


 

URBAN-Xについて

URBAN-Xは、都市生活のあり方を再考しているアントレプレナーに向けたプラットフォームです。MINIが2016年に立ち上げたこのURBAN-Xは、大胆な技術ソリューションで持続可能な地球を実現しようとしている各種のスタートアップをパートナーとしています。従来のスタートアップ・プログラムの型にはまらず、各起業家に対し、それぞれに見合ったサポートを提供しています。気候や都市に関心を寄せる次世代のイノベーターが成長を加速させ、ビジネスで成功を収められるようにすることがサポートの目的です。URBAN-Xは、そのプラットフォームの中核として、世界クラスのエンジニアリングとデザイン・リソースや、業界トップクラスの投資資本、さらには投資家/政策立案者/企業戦略者/最終消費者のグローバル・ネットワークや、創業者のグローバル・ネットワークに向けた最高の教育コンテンツなどを提供しています。​

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20週間にわたって実施されるコースでは、カスタマイズされた実践的な集中プログラムにより、「市場に見合った製品」を提供できるようになるまでの道のりについて学びます。プログラムはバーチャル環境を利用して行われるだけでなく、ニューヨーク市ブルックリンのNew Labにある本部でも実施されています。